「あの時・・」:機会費用と機会損失・・(経済学002)
~ 選ばなかった「選択」を考える~
経済学の目的は、「”満足する(効用が最大になる)”ような資源の効率的な配分の実現すること」ですが、ここでポイントとなるのは、効用最大のために何らかの「選択」をしなければならないということです。私たちは毎日、意識・無意識に(些細な事も含めれば)数百の選択をしているとも言われています。そして、毎度のように悩まされるわけですね・・「はたして、この選択が正しかったのか・・?」と。
◆ 「選択」ということ
例えば、「次の電車に間に合わせるには、走るべきかどうか・・?」というようなレベルの”選択(これも選択と呼びます)”は、日常茶飯事で大したことではありませんが、「新製品を市場に投入すべきかどうか・・」とか、「どの会社に就職するか・・」といった選択は、その後の経営や人生において非常に重要な意味(損得)を持つわけですから、”重い選択”と言えそうです。
そして選択のたった一つの性質として「非可逆性」があります。当たり前ですが、”一度選ぶと元に戻って選択しなおすことはできない”、という事です。もちろん”やり直す”ということは可能ですが、そのためにはコストや(もっとも大切な)時間を消費してしまいますから、まったくの”やり直し”にはならないのです。そして、この選択をする上での重要な考え方が、 「機会損失」と「機会費用」です。(「選択」については、行動経済学でも詳しく取り上げます)
◆ 機会損失
「機会損失」という言葉は、みなさんもよく耳にしたり使ったりしていることでしょう。例えば、「先月の仕入れをケチったばかりに、今月は品切れを起こして、せっかくの売上が上げられなかった・・」といったような場合、「今、在庫を持っていれば、その分の売上げが増えたのに(要は、販売の機会を逃した)・・」というわけです。
これは分かり易いですね・・難しく言えば「本来なら得られたであろう便益を、”選択したこと”によって得られなかった場合、それを”損失”とみなす」という事で、要は、(実質的な損が出たわけでもない)「たられば」の話ということです。もっとも、上の例で言えば、仕入れを増やすことによる資金繰りの問題や、在庫スペースの問題とかで、その時の(仕入れをしないという)選択には、なんらかの合理的な理由があったはずですが・・。機会損失を考える時には、往々にして結果としての損得に目が行ってしまい、その選択理由による損得まで勘定に入れない傾向があるのも特徴です。単純に「あ~~あ、やっちまった・・」と言うわけです。また、その言葉のとおりの「損失」ですから、一般的には”金額”で表される場合が多いのです。
◆ 機会費用
さて、今回のテーマである「機会費用」ですが・・まず定義から・・
「複数の選択肢があるとき、ある選択をすることによって”犠牲”にした選択肢を選んでいたならば得られたであろう便益のこと」となります。・・これを見て、 機会損失との違いが分かりますか? 「便益=費用」とは、どういうことでしょうか・・? 私も、最初は何度読んでも理解できませんでしたが・・。
まず、機会損失と意味が似ている点を確認しましょう・・。
・機会損失 ⇒ 実際に損失は発生していないのに、取りそこなった”便益”を”損失”としている。
・機会費用 ⇒ 選択していないことからの予想される”便益”を”費用”としている。
どちらも、実際には実現してもいないモノを”おカネ(損失・費用)のように”とらえているように聞こえますが・・、機会費用を分かりにくくしている一番の原因は、この「費用」の概念です。(費用 ≠ 損失)
~ 「費用」って、何だろう・・ ~
例えば、何か買い物をするような場合、モノを買う(手に入れる)ことによって”幸せ”という「プラスの感情(快)」を引き起こしますが、一方で”おカネを払う”という「マイナスの感情(不快)」も発生します。一般には 「費用=おカネ」というイメージがありますが、経済学では、この「マイナスの感情(不快)を引き起こすものすべて」を費用ととらえます。(何もおカネに限ったものではない・・と言うのがポイント!)。買い物の例では、「プラスの感情 > マイナスの感情」の時に、 買い物(交換)が成立するわけです(損をするつもりで買い物をする人はいませんよね・・)。
そして、この「プラスの感情」を”便益”、「マイナスの感情」を”費用”と呼び、「機会費用を比較する」とは、選択によって発生する”おカネだけではなく、感情も含むすべての費用”を比較して選択を評価するという事です。
※ 経済学は単なる「おカネの学問」ではありません。人間のココロを探求する学問なのです。
ああ・・やっぱり難しいですね・・。実は、この「機会費用」の考え方は、経済学のみならず実生活においても、いろいろな場面に応用ができます。今回は、なんだかわけのわからない説明で終わってしまいましたが・・(ゴメンナサイ!)。これから何回かに分けて、シリーズで考えていきましょう・・次回をお楽しみに!
関連図書のご案内:
「機会損失」については、いくつかビジネス書が出ていますが・・じつは「機会費用」についての専門書、ビジネス書はあまり見当たりません。その中で、身近な例を上げて「機会費用」を解説しているのが下記の本です。中には「??」な例もありますが、「機会費用」のイメージをとらえるのには、非常に分かり易い本だと思います。
あなたの人生は「選ばなかったこと」で決まる
【不選択の経済学】
竹内 健蔵 (著)
日経ビジネス人文庫(2017/3/2)
◆ 「失恋の痛みからの抜け出し方」「接待を成功させる方法」といったことから、金利決定のメカニズム、大規模交通インフラなどの社会資本整備の理解まで、経済学の「機会費用」という考え方を切り口にわかりやすく解明。身近なテーマから世の中のカラクリを読み解く知的レッスン!