「やっちまった!」:「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」
私もかつて自衛隊で飛行教育を受けた時に、コックピットで最初に出会ったのがカード式の「チェックリスト」でした。皆さんも映画やドラマでご覧になったこともあるでしょう・・アレですね。仕組みは極めて単純で、「(チェック項目)・・・(チェックする内容)」が1行で書かれたチェック項目が上から順番に並んでいます。リストは、悩んだり、考え込むようなことは聞いてきません。「そのモノがあるかどうか、どういう状態か」を確認するだけです。
自衛隊を退官した後はいろいろな職業を経験しましたが、私の机の右脇には、いつでも何らかの”チェックリスト”がありました。ルーチンで行う事はプラケースに入れてリストを用意しておきましたが、通常はタスクが発生した際に、すぐさまA5の雑用紙に、 行の左端にはチェックを入れる「□」を書いて、その右側に ”やること”や注意点を箇条書きに書き出しておきます(これは、チェックリストというよりは「ToDoリスト」ですが・・)。
そして、完了した都度に”□”にチェック (”レ”) を飛ばしていき、「レ」がすべて付く頃にはタスクは完了しているというわけです。たいていは、そのリストは捨ててしまいますが、重要なものや、以降も発生するようなものは、改めて手順を見直してチェックリストを作り、ストックしておきます。
こうしてチェックリストに自然に慣れ親しんで来た私にとって、 チェックリストは私が「仕事の基本」としているビジネスマナーの中でも筆頭に上げられるものです。そして、チェックリストの重要性を改めて思い起こしてくれたのがこの本です。
アナタはなぜチェックリストを使わないのか?
【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】
アトゥール・ガワンデ(著)、吉田 竜(訳)
晋遊舎 (2011/6/18)
◆ 全米30万部突破のベストセラー。医師でありジャーナリストでもある著者は、「TIME」で2010年の「世界で最も影響力ある100人」にも選出された。
この本では、外科医、パイロット、高層ビル建築専門家、料理人など、チェックリストが活躍している様々な場面を紹介して、チェックリストの本質について論を進めていきます。また、著者自身、専門分野である手術にチェックリストを取り入れ、悪戦苦闘の後、遂に世界各国での手術の危険性を大幅に減らすことに成功しています。
ここで、幾つか興味深いトピックがありますので簡単にご紹介しましょう(詳しくは本誌で)。
<爆撃機の墜落事故>
1935年10月、アメリカ空軍の次世代長距離爆撃機選定のためのコンペが行われた。ボーイング社は「モデル299」を出展したが、事もあろうことか、デモフライで離陸後直後に墜落した。複雑な操縦に気を取られて昇降・方向舵のロックを外し忘れていたのが原因であった。そこでボーイング社では、パイロットの訓練期間を延長するのではなく、ハガキ大のカード(チェックリスト)を初めてパイロットに整備した。効果は絶大で、結局、180万マイルを無事故で飛ばし、連合国を第二次大戦勝利へ導く大きな原動力となった。このモデル機こそ、名機と謳われた「B-17」である。
<外科手術の例>
2001年、ジョンズ・ポプキンス病院のICU(集中治療)の専門家ピーター・プロノボスト医師は、中心静脈カテーテルの感染予防防止のため、たった5つの手順を確認するチェックリストを作り、それが医師によって守られない場合は、医療現場の看護師が手術を止める権限を与えた。そして、チェックリストの施行後1年間で、術後10日間の感染率が11%から0%に下がったばかりか、その後の感染も防ぎ、結果的には43人の感染と8人の死亡を防ぎ、200万ドルの経費を節減した計算になる。
それでは、我々が仕事・生活の場でチェックリストを活かすには、どういった点に気を付ければいいのでしょうか?もっとも、職種も様々なわけですから、チェックリストの内容、使われ方も一様ではありませんが、共通する<チェックリストの基本>はいくつかあるように思えます。
・ いつチェックを行うか(チェックリストを使う場面を予め決めておく)。
・ チェックリストは長すぎてはいけない(1つのチェック項目の長さと、チェック項目の量)。
・ チェックリストの文章はシンプルかつ明確であること(余計な判断を入れさせない)。